印刷不良は二種類あり、機械調整で解けるのは一方だけ
はんだ量が不足したりパッド間がつながったとき、現場でまず触られるのはスキージ圧です。半分の場合はこれで収まります。残り半分では効かないうえ、原因がより見えにくい場所へ問題を移してしまいます。
判別基準は単純です。不良が位置・基板ごとにばらついているか、同じ位置が毎枚必ず出るか。
- ウィンドウ内のばらつき:不良位置が移動する、ペースト交換や版下清掃で改善する、基板ごとに程度が違う。工程ウィンドウが狭いだけで、機械調整が効きます。
- ウィンドウ外の必然不良:同じパッド、同じ連結基板内の同じ位置が毎枚出る。そのアパーチャは現在のステンシルとこの基板の組み合わせでは印刷できず、調整を続けると他の位置が悪化するだけです。
本稿は前者を扱います。後者の判定方法と差し戻し先は第七節にまとめます。
前提条件:版が基板に密着していなければスキージ条件は意味を持たない
印刷が物理的に行うのは三つだけです。スキージがペーストをアパーチャへ押し込む、アパーチャ内で充填される、版が離れるときにペーストが壁側ではなくパッド側に残る。
このうち二番目の前提が、確認されずに成立していると見なされがちです。すなわち 版の下面と基板表面のあいだに隙間がないこと。隙間があるとペーストはスキージ圧で横方向に広がり、パッドの外に乗ります。版下の滲みや「アパーチャより大きい印刷形状」はここから生じます。スキージ圧は関与していますが、原因ではありません。
したがって診断は密着から始めます。実用的な確認方法は版の下面を見ることです。アパーチャ周辺のわずかな残渣ではなく面的なペースト跡があれば密着が崩れています。この状態でスキージを触るのは、ある変数を別の変数で埋め合わせる行為で、ウィンドウは触るたびに狭くなります。
変数グループ一|スキージ:三つの条件と、常に存在する二つの対立
スキージ側で動かされる量は三つあり、それぞれ別のものを支配し、互いに対立します。
- 角度は、ペーストをアパーチャへ押し下げる分力と前方へ送る分力の比を決めます。角度が立つほど下向きの分力が増え充填は良くなりますが、版面への当たりも強くなります。
- 圧力は、版面がどこまで掻き取られるか、そして版がどれだけ基板へ押し付けられるかを決めます。低すぎれば版面にペーストが残り、次のストロークで不要な位置に置かれます。高すぎるとスキージがアパーチャを掻き出し、充填済みのペーストを持ち去るため、狭ピッチ部はかえってはんだ不足になり、スキージと版の摩耗も早まります。
- 速度は、ペーストが流れ込む時間を決めます。速いほど深いアパーチャの充填は不十分になります。ただし遅すぎるとスキージ前方での滞留時間が伸び、せん断によって粘度が変化し、微細アパーチャはむしろ充填しにくくなります。
対立は二組、常に存在します。圧力と狭ピッチ充填の対立(上げれば小アパーチャが掻き出される)、速度と大アパーチャ充填の対立(下げれば大面積部の縁が落ち込む)。したがってスキージ条件は最適値を探すものではなく、基板上の最微細アパーチャと最大アパーチャの双方が許容する幅を探すものです。その幅の狭さは基板の最小ピッチで決まります。SKPCB の PCBA 工程は BGA 0.2 mm、QFN/QFP 0.3 mm の最小ピッチ(CLAIM_REGISTER: PCBA-PITCH)、最小実装部品 01005(PCBA-MIN)に対応しており、この水準の基板ではスキージの許容幅が通常の混載基板より明確に狭くなります。
変数グループ二|版離れ:ペーストは「引き出される」
版が離れる瞬間、アパーチャ内のペーストはアパーチャ壁とパッドという二つの付着力に引かれます。基板側に残る条件は、パッド側が勝つことです。
ここから、現場で取り違えられやすい二点が説明できます。
- 版離れは遅いほど良いわけではない。 遅すぎるとペーストが壁に沿って引き戻され、縁が壁側に残り、印刷形状は低く落ち込みます。速すぎるとペーストが切れ、一部がアパーチャ内に残ります。有効なのは、短い距離を低速で離してから加速する二段動作で、全行程を単一速度にすることではありません。
- 版離れ不良は充填不足と誤判定される。 充填不足ではもともと満たされていないため、形状は低いが完全で上面は平らです。版離れ不良ではアパーチャは満たされており一部しか出ていないため、上面に欠けや円錐状の形が出ます。体積ではなく形状を見るほうが両者を分けられます。
アパーチャ壁の状態と版の張力はこの均衡を動かします。壁が粗いほど、張力が不均一なほど、版離れの再現性は落ちます。どちらもステンシル側の性質で、印刷条件ではありません。
変数グループ三|バックアップと固定:基板三種、課題三種
バックアップは最も省略されやすく、しかもウィンドウの広さを決める要素です。均一に支持されていればスキージ圧はすべて充填に使われます。支持できていなければ圧力の一部が基板のたわみに変わります。
- 薄板:スキージ圧で中央部が下方へたわみ、版と基板のあいだに隙間ができます。基板中央で滲みやはんだ不足が系統的に出て、周縁は正常という形で現れます。縁のレールだけでなく専用のバックアップが必要です。
- 連結基板(パネル):ミシン目や V カットの連結部は単枚中央より剛性が低く、たわみ量が揃わないため、同一パネル内の単枚ごとに印刷体積が変わります。パネル構成と連結方式は基板側の入力で、ステンシル発注前に確定していなければなりません。
- 部品実装済み面への二次印刷:平板バックアップは使えず、逃がしバックアップが必須です。位置を誤ると実装済み部品を押すか、部品周囲で基板を局所的に持ち上げます。大型部品があるほど問題は鋭くなります。SKPCB の PCBA 工程は対角 74 mm までの大型 BGA/QFP に対応しており(PCBA-MAXCOMP)、その面の二次印刷バックアップは現場対応ではなく事前設計が前提です。
固定の役割は、スキージ進行方向への基板移動を防ぐことです。不足していると最初のストロークで基板がわずかに動き、すべての印刷がパッドに対してずれ、ステンシルの位置合わせ不良のように見えますが実際は基板が動いています。判定方法は、ずれの方向がスキージ進行方向と一致するかを見ることです。
調整順序:固定であり、入れ替え不可
各段が次段の前提であるため順序が存在します。飛ばすと後段の条件が前段の欠陥を埋め合わせることになり、ウィンドウはシフトごとに狭くなります。
- バックアップ:均一支持を確認し、薄板と二次面には対応する方式を用いる。
- 密着:版下面と基板のあいだに隙間がなく、下面が清浄であることを確認する。
- スキージ:この基板の最微細と最大アパーチャの双方が許容する幅で角度・圧力・速度を決める。
- 版離れ:低速で離してから加速する二段動作として決め、体積ではなく形状で判断する。
- 清掃周期:版下面を何枚ごとに拭くかを決める。周期はウィンドウの一部であり保全項目ではありません。長く取りすぎれば、ロット後半は初品と同じ工程ではなくなります。
各段を決めたら、通し終えてから確認するのではなく、前段がまだ成立しているかをその都度確認します。
この五つは機械調整を続けてはいけない
以下はウィンドウ外で、原因はステンシル設計かデータパッケージにあります。調整の継続は他の位置を犠牲にして不良を隠すだけです。
- 同じパッドが毎枚はんだ不足で、そのパッドが周囲より明らかに小さい — アパーチャの面積比が不足し、幾何的に抜けません。アパーチャと版厚の整合の問題です:アパーチャ面積比とペースト抜け
- コネクタパッドは厚盛りを要し、狭ピッチ部は薄盛りを要し、単一厚ではどちらも満たせない — 局所厚みの衝突で、ステップステンシルの可否判断に属します:ステップステンシルの可否判断
- 版離れの再現性が版の領域によって明確に異なる — 張力分布または版材の問題です:版材・フレーム・張力の選定
- すべての印刷がパッドに対して回転またはスケールずれしている — ステンシルと基板の基準・パネル配列・フィデューシャルの不一致で、データパッケージの問題です:ステンシルデータパッケージの項目
- 新しいステンシルが初回から印刷できず、同一図形の前版と挙動が違う — 受入状態の問題で、印刷機ではなく受入検査に属します:ステンシル受入検査と工程引き渡し
初品承認:ウィンドウを再現可能にするために固定する項目
ウィンドウは入力を固定して初めて再現できます。初品承認時に記録し固定すべきものは、バックアップ方式(二次面の逃がし位置を含む)、ステンシルの識別と改訂、スキージ角度・圧力・速度、版離れの二段動作、清掃周期、そして初品の測定結果です。
測定側の閉ループは SKPCB の PCBA 検査能力が担います。印刷後の体積とずれは SPI、以降の工程はインライン 2D AOI とリフロー後 3D AOI、X 線、ICT、FCT(CLAIM_REGISTER: PCBA-TEST)。実装受入は IPC-A-610 Class 3(PCBA-IPC)、はんだボイド率は窒素リフロー条件で 10% 未満に管理します(PCBA-VOID)。印刷ウィンドウの評価は SPI データで行うべきで、リフロー後の接合部形状では行えません。その時点ではリフロープロファイルの影響が混ざり、印刷単独への帰属ができなくなります。
検査と承認の運用は 品質と検査、実装工程能力は PCBA 実装工程能力 を参照してください。
見積と初回生産の前に提示が必要な印刷側入力
以下は設計または工程技術から出すべき情報です。欠けた項目はそのまま、現場が機械調整で当てに行く対象になります。
- 基板上の最小ピッチと最小パッド、およびその分布位置
- 基板厚、ならびに専用バックアップを要する薄板に該当するか
- パネル構成、面付け数、連結方式
- 印刷面(片面/両面)、二次面の実装済み部品の高さと位置
- 局所厚盛りの要求(コネクタ、シールドフレーム、大電流パッド)の有無
- 想定数量と切替頻度(清掃周期と版材の方向付けに使用)
ステンシル製造および関連サービスの入口は SMT ステンシル製造サービス。
セルフチェック
- [x] ヘッダ項目の網羅:site、skpcb slug、skpcb cover、カバー検証、主・補助キーワード、検索意図、核心問題、目標ページ、需要根拠、ゲート結果、テーマ変更理由、既公開記事との分担、画像コンセプト、事実境界、status をすべて明示。
- [x] 主キーワードの自然な使用:
stencil printing smtの日本語検索表現「はんだペースト印刷」「印刷 工程」を title・description・H1・導入部で自然に使用、詰め込みなし。 - [x] 数値境界:引用は CLAIM_REGISTER の PCBA-PITCH、PCBA-MIN、PCBA-MAXCOMP、PCBA-TEST、PCBA-IPC、PCBA-VOID のみ。スキージ圧/速度、版離れ速度、版厚、ペースト粘度の数値は一切記載せず。装置型番、ペースト銘柄、歩留り、納期、顧客事例も記載せず。
- [x] 内部リンク:
/ja/services/smt-stencil、/ja/pcba、/ja/quality、/ja/blog/smt-stencil-aperture-area-ratio-paste-release、/ja/blog/step-stencil-multilevel-aperture-design、/ja/blog/smt-stencil-material-frame-tension-selection、/ja/blog/smt-stencil-data-package-paste-layer-to-cut-file、/ja/blog/smt-stencil-incoming-inspection-handoffの 8 本。すべてout/ja/のビルド出力に存在を確認済み。/industries/*へのリンクなし。 - [x] 重複回避:ステップステンシルの可否判断記事、面積比記事、印刷対ジェットディスペンスの選択記事とは核心問題が異なる。本稿は工法とアパーチャが確定した後のウィンドウと調整順序のみを扱う。
- [x] slot 1 との分離:slot 1 は外形ルーティング公差(
pcb profiling tolerance)で、キーワード・意図・目標ページ・カバーがいずれも異なる。 - [x] FAQ と本文の整合:6 問すべて第二〜七節に根拠があり、新規主張を追加していない。
- [ ] ネイティブ校閲:未実施。公開前に日本語ネイティブによる用語・文体確認が必要(REVIEW_REQUIRED)。
---
FAQ
問:スキージ圧はいくつに設定すべきですか。
答:そのまま流用できる数値はありません。許容圧力幅は基板上の最微細アパーチャと最大アパーチャの双方で決まり、バックアップ方式によって移動します。具体的な基板から切り離した圧力値は現場で機能しないため、推奨値は提示しません。正しい手順は第六節の順序に従い、バックアップと密着が成立したうえで、最微細と最大アパーチャ両方の結果から幅を絞り込むことです。
問:はんだ不足のとき、圧力と速度のどちらを先に変えますか。
答:どちらも先ではありません。まず版下面に面的なペースト跡がないか(密着)、基板中央と周縁で挙動が違わないか(バックアップ)を確認します。それらが問題なければ、不足が狭ピッチ部に集中しているなら速度より先に圧力を下げ、大アパーチャ部に集中しているなら先に速度を下げます。
問:充填不足と版離れ不良はどう見分けますか。
答:印刷形状で見ます。充填不足は低いが完全で上面が平ら、版離れ不良は上面に欠け・円錐形・縁の持ち上がりが出ます。体積はどちらも低く出るため、SPI の体積判定だけでは分けられません。
問:二次印刷では必ず逃がしバックアップが必要ですか。
答:裏面に部品が実装されている場合は必須です。平板では実装済み部品を押すか、部品周囲で基板を局所的に持ち上げ、いずれも版と基板の密着を壊します。逃がし位置はプログラム準備段階で実装配置から決めるもので、現場で当て物をして済ませるものではありません。
問:版下面はどのくらいの頻度で拭きますか。
答:この周期は工程ウィンドウの構成要素です。基板種類、アパーチャ密度、版面でのペーストの挙動によって決まるため、初品段階で決定して固定します。避けるべきは、延長可能な保全項目として扱うことです。周期が変わればロット後半は初品と比較できなくなります。
問:印刷の問題はすべて印刷機側で解決できますか。
答:できません。第七節の五つは原因がステンシル設計かデータパッケージにあり、調整の継続は他の位置を犠牲にして隠すだけです。判断の基準は、同じ位置で毎枚再現するかどうかです。再現するならウィンドウ外であり、設計または受入検査へ戻します。

