プリント基板の公差表は項目ごとに値を示します。穴位置、外形、板厚がそれぞれ一つずつです。しかし組立ではこれらが組み合わさります。コネクタは二つの穴に同時に入り、筐体のスナップは穴と基板端の両方を逃がし、カードガイドは板厚を挟みます。図面に「一般公差による」とだけ書くと、各項目は合格でも、組み合わせた寸法が機構側の余裕を超えることがあります。
本記事では二点を扱います。図面で何をデータムにするか、そして穴位置・外形・板厚の公差がどう積み上がるかです。各公差の値は SKPCB 製造公差表を参照してください。呼び寸法と受入値の違い、図面に記載のない項目が公差表で判定される点は図面上の製造公差:呼び値と受入値で説明しています。
1. 公差ごとに測定基準が異なる
| 項目 | 決まる工程 | 測定の基準 |
|---|---|---|
| 穴位置 | 穴あけプログラムと位置合わせ | プログラム原点またはガイド穴 |
| 外形 | ルーター加工または打ち抜き(別段取り) | 外形そのもの |
| 板厚 | 積層プレス、めっき、表面処理 | 両面間、測定位置は取り決めによる |
穴と外形は別の工程で加工されます。同じプログラムで開けた穴同士は穴あけ誤差だけを持ちますが、穴から基板端までの距離には外形加工の位置合わせ誤差も加わります。基板端から穴位置を寸法指示すると、二つの工程の誤差が一つの寸法に入ります。
2. データムの選び方
作図しやすい角ではなく、取付け方法からデータムを決めます。
- データム A:取付け面(通常は裏面)。板厚と部品高さの基準。
- データム B:取付け穴またはガイド穴の一つ。位置を決める。
- データム C:二つ目の取付け穴。回転を決める。
コネクタ穴、プレスフィット穴、位置決め穴などの重要穴は B と C から寸法指示します。基板端が位置決めに関わらなければ一般公差のままで構いません。カードガイドやスナップなどで関わる場合は、その辺を重要寸法として、どのデータムに対する寸法かを明記します。
3. 公差の積み上げ:計算例
以下は SKPCB 公差表の標準値による算術計算です(インチ値が正)。穴位置 ±0.003"(≈0.076mm)、外形 ±0.005"(≈0.13mm)。
| 寸法の連鎖 | ワーストケース(単純加算) | 統計的(二乗和平方根) |
|---|---|---|
| 穴間(同一プログラム、各穴がデータム基準) | ±0.006"(≈0.15mm) | 約 ±0.0042"(≈0.11mm) |
| 穴から基板端 | ±0.008"(≈0.20mm) | 約 ±0.0058"(≈0.15mm) |
使い分け:
- ワーストケース:小ロット、手直しできない嵌合、組めなければ廃棄となる組立。
- 二乗和平方根:各誤差が独立で中心に分布すると仮定。量産で一部選別が許される場合。
計算結果を機構側の余裕と比べます。コネクタピンと穴のすき間、スナップの逃げ、ねじと通し穴のすき間です。余裕が積み上げ値より小さければ、機構設計を見直すか、一項目を厳しくして図面に記載します。
4. 板厚が連鎖に入る場合は測定位置を明記
公差表の板厚公差は ±10% または ±0.005" の大きい方です。エッジコネクタ、カードガイド、プレスフィットコネクタで組立寸法に入ります。図面には次を記載します。
- 測定対象:基材厚か、銅・ソルダーレジスト・表面処理を含む総厚か。
- 測定位置:金端子部、ガイド辺、基板中央のどこか。
記載がないと、製造側と受入検査で測定位置が異なり、判定が食い違うことがあります。板厚の工程要因は完成板厚公差の管理を参照してください。
5. 図面に書くべき内容
- データム A・B・C の定義と位置。
- 重要寸法の個別公差と基準データム。
- 「その他の寸法は製造公差表による」の注記。
- 板厚の測定対象と測定位置。
- 厳しくする項目を個別に記載(例:「穴 B–穴 C 間 ±0.002"」)。「高精度」とまとめて書かない。厳しくすると工程や検査方法が変わる場合があり、案件ごとのレビューで確認します。
加工方法が外形精度に与える影響は外形加工公差、積層構成図と合わせたリリース前の確認は積層構成図リリースチェックリストにまとめています。
6. 図面に合わせた検査
穴位置と外形寸法は二次元画像測定機でデータムから測定できます。図面でデータムを定義すれば、検査報告は同じ座標系でデータを示し、受入検査でも同じ寸法を再測定できます。重要寸法の測定データの添付が必要な場合は、見積ページから依頼時にお知らせください。
FAQ
Q:公差の記載がない寸法は何で判定されますか?
A:製造公差表の標準値で判定します。記載がないことは制限がないことを意味しません。
Q:なぜ基板の角から穴位置を指示しないほうがよいのですか?
A:角は外形加工、穴は穴あけで決まります。角から指示すると両方の誤差が一つの寸法に入り、穴間より誤差が大きくなります。
Q:ワーストケースと二乗和平方根のどちらを使いますか?
A:小ロット、手直し不可、組めなければ廃棄の場合はワーストケース。誤差が独立とみなせる量産では二乗和平方根が使えます。
Q:穴間公差を公差表より厳しくできますか?
A:図面で項目ごとに指定できます。可否と工程・検査への影響は案件レビューで確認します。
Q:板厚に測定位置の指示は必要ですか?
A:必要です。総厚と基材厚は銅、ソルダーレジスト、表面処理の分だけ異なります。金端子など嵌合部は個別に指示してください。

