部品から出た熱が通れる構造は三つだけ
部品パッケージから出た熱が基板に入ると、そこから使える構造は三種類しかありません。基板厚を貫く穴(サーマルビアアレイ)、基板面に広がる銅(厚銅と銅ベタ)、基材そのものの置き換え(金属ベース基板)です。これは同じ考えの「初級・中級・上級」ではありません。物理的な仕組みが違い、止められる製造パラメータもそれぞれ別です。
熱の問題で何度も改版する設計は、計算を間違えているわけではないことが多いです。同じ経路を足し続けているのです。ビアが足りなければもう一列、銅が足りなければもう 1oz。そしてどこかの製造パラメータが先に限界に達し、基板が作れないか、作れても再現しなくなります。この時点で必要なのは「もっと足す」ことではなく、どの経路に切り替えるかの判断です。
本稿が答えるのは一点だけです。それぞれの経路を制限している具体的な製造パラメータと、切り替えの判断基準。 熱抵抗値も温度上昇値も出しません。それらには案件ごとの電力・風速・筐体・周囲条件が必要で、プロジェクトの熱設計レビューの範囲です。以下の数値はすべて SKPCB が公開している製造能力と製品仕様から引用しています。
> 製品としてのアルミ基板の仕様範囲と用途はアルミ基板ページ、金属ベース(アルミ/銅ベース)の全体仕様は金属ベース基板ページをご覧ください。本稿は製品選定を繰り返さず、三つの構造経路の製造境界と切り替え基準のみを扱います。
経路 1:サーマルビアアレイ — 穴径・アスペクト比・レジスト開口に同時に挟まれる
サーマルビアは部品パッドから基板の反対面または内層銅ベタへ熱を垂直に導きます。基材も銅厚も変えずに済むのが利点で、コストはすべて穴あけとスルーホールめっき側にかかります。
制限 1:最小穴径と穴径公差。 製造能力ページでは最小穴 0.075 mm、穴径公差 ±0.05 mm。穴が小さいほど 1 穴あたりの伝熱断面は小さくなり、数で補うことになります。しかしビア数が増えると穴あけ工数とドリル摩耗が増え、さらにパッド面が穴で埋まると実装時にはんだが穴から流れ落ちます。これがサーマルビアで最もよく起きる実務上の問題です。処理方法(穴埋め、レジスト被覆、パッド上ではなく脇に配置)は DFM レビューで確定する必要があり、設計側で前提にしてはいけません。
制限 2:アスペクト比 ≤10:1。 これは硬い制約です。板厚 2.0 mm の基板では穴径を 0.2 mm 未満にできず、それ以下では穴壁めっきの均一性が保証できません。つまり板が厚いほどサーマルビアは小さくできないのですが、厚板はまさに熱が外へ出にくいケースです。この経路は厚板で自ら狭まります。
制限 3:ソルダーレジスト開口とレジストブリッジ。 製造公差ページでは、レジスト開口はパッドより 0.003″ 大きく、標準レジストブリッジは 0.004″、パッド間隔が 0.010″ 未満の場合は特別な処理が必要になることがあるとしています。サーマルビアアレイは通常部品の放熱パッド上に置かれ、そこはパッドが密で間隔が狭いため、レジストブリッジがそもそも入らないことがあります。これは熱の問題ではなく、レジスト工程が先にそのレイアウトを拒否しているということです。
この経路が限界に達する条件: アレイが使えるパッド面積を埋め尽くした、板厚によりアスペクト比が 10:1 に張り付いた、またはレジストがブリッジを形成できない。これ以降穴を増やしても伝熱は改善せず、工程リスクだけが増えます。
経路 2:厚銅と銅ベタ — 線幅・層数・板厚に同時に挟まれる
二つ目の経路は銅の断面積を使って熱を面方向に広げます。銅厚を上げる、銅ベタを大きくする、またはその両方です。
制限 1:銅が厚くなると最小線幅は後退する。 製造能力ページの銅厚は 0.5oz〜>12oz、最小線幅/間隔は 2/2 mil ですが、この両極を同時に取ることはできません。厚銅基板ページが示す組み合わせは、銅厚 3oz〜>12oz に対して最小線幅 6 mil です。厚銅はエッチングで形成するため、銅が厚いほど側壁のテーパーが大きく、細線が難しくなります。これは工程自体の性質で、設備を良くすれば越えられるものではありません。したがって厚銅と高密度配線は両立しません。銅で放熱性能を買うなら、配線密度を手放すことになります。
制限 2:層数の上限。 製造能力ページ全体では 2〜64 層に対応しますが、厚銅基板ページの層数は 1〜16 層です。厚銅層の積層では樹脂充填量が多く層間厚のばらつきリスクが高いため、層数が圧縮されます。放熱用の厚銅と 16 層超の信号配線を同時に必要とする設計は、実現可否をエンジニアリングレビューで確認する必要があり、二つのページの最大値を足して仮定することはできません。
制限 3:板厚とインピーダンス。 厚銅基板ページは板厚 0.8〜6.0 mm、インピーダンス制御 ±10% を示し、一方で製造能力ページのインピーダンス制御は ±5%(標準 ±10%)です。厚銅は銅厚公差を拡大し、それに伴ってインピーダンス制御が緩みます。制御インピーダンスと厚銅を同一基板で扱う場合、インピーダンス等級は厚銅側の値で議論すべきで、製造能力ページの ±5% を引用することはできません。
この経路が限界に達する条件: 銅厚の増加により最小線幅が設計上許容できない水準まで後退した、層数制限が配線要求に突き当たった、または制御インピーダンスの公差要求が厚銅の値と衝突する。これ以上銅を足すと三項目が同時に悪化します。
経路 3:金属ベース基板 — 基材を替えるが、構造の自由度も手放す
三つ目の経路は銅と穴ではなく、FR-4 基材を金属ベースに置き換えます。熱は部品から絶縁層を通って金属ベース板に入り、そこから筐体やヒートシンクへ渡されます。
得られるもの: 金属ベース基板ページでは熱伝導率 1.0〜8.0 W/m·K、アルミ/銅ベース選択可、アルミベース厚 0.8〜3.0 mm、銅厚 1oz〜10oz。アルミ基板ページはもう一段狭く、熱伝導率 1.0〜3.0 W/m·K、銅厚 1oz〜6oz、耐圧 ≥3000V。FR-4 の水準と比べると、これは三つの経路の中で唯一基材の熱伝導特性そのものを変える方法です。
手放すもの:
- 層数。 アルミ基板ページは 1〜4 層、金属ベース基板ページは片面/両面です。製造能力ページの 2〜64 層とは別の枠です。金属ベースを選ぶことは多層配線を諦めることと同義です。
- 基板サイズの値が一致しない。 アルミ基板は最大 1500×600 mm、金属ベース基板は 1200×600 mm、製造能力ページ全体は 1250×570 mm。三つの数字が異なるのは、サイズ上限が製品種類と工程によって変わるためです。具体的な製品種類ごとに確認が必要で、最大値を取ってはいけません。
- ビアの自由度。 片面/両面構造では、配置できるビアの種類と位置が多層基板より大きく制限され、通常の設計手法が使えなくなります。
この経路を選ぶ条件: 熱が基板を離れて筐体へ入る必要があり、基板上に使える銅面積とビア位置が残っておらず、かつ配線要求そのものが 1〜4 層に収まるとき。最後の条件が本当の判断基準です。回路が 4 層に収まらなければ金属ベース基板は成立せず、構造レベルで別の手(分割基板、外部放熱、部品のディレーティング)を検討することになり、これはプロジェクトレベルのレビュー範囲です。
三つの経路の切り替え基準
上記の制限から、切り替え時期は判断可能な三つの文に整理できます。
- アレイがパッドを埋め尽くした、または板厚によりアスペクト比が 10:1 に達した → サーマルビア経路は限界、銅面積へ移る。
- 銅厚の増加により最小線幅が 6 mil まで押し戻された、層数が 16 層の上限に達した、またはインピーダンス公差を ±5% に留める必要がある → 厚銅経路は限界、基材変更を評価する。
- 配線が 1〜4 層に収まり、かつ熱を筐体へ渡す必要がある → 金属ベース基板が成立。4 層に収まらなければこの経路は不成立で、プロジェクトレベルの構造案へ移る。
逆も成り立ちます。配線に十数層必要なら、最初から金属ベース基板を候補に入れないこと。 多層の枠内でサーマルビアと内層銅ベタを組み合わせ、穴とレジストの製造可否を DFM 段階で確認するのが筋です。
レビュー提出時に揃えるべき四項目
三つの経路の判断は熱要求表だけでは下せません。エンジニアリングレビューでは以下を同時に見る必要があります。
- 板厚と目標層数 — アスペクト比と層数上限が、どの経路がまだ開いているかを先に決めます。
- 最小線幅/間隔の設計要求 — 銅厚をどの段まで上げられるかの判断材料になります。
- 制御インピーダンス網の有無と公差等級 — 厚銅とインピーダンスが共存できるかを決めます。
- 熱を筐体やヒートシンクへ渡す必要があるか、および機械的な取り付けインターフェース — 金属ベース基板が必須選択肢かを決めます。
この四項目が揃って初めて、製造側は「その基板でこの経路にどれだけ余裕が残っているか」を判断できます。具体的な窓は案件資料に基づいて確認します。製造能力ページ自体も、記載の窓がすべての製品への普遍的な確約ではないと明記しています。
FAQ
Q1:サーマルビアは何個、どの間隔で打つべきですか。
これは案件パラメータであり、汎用値はありません。SKPCB が公開している制約は最小穴 0.075 mm、穴径公差 ±0.05 mm、アスペクト比 ≤10:1、およびレジスト開口がパッドより 0.003″ 大きいこと、標準レジストブリッジ 0.004″ です。個数と間隔はこれらの境界内でパッド寸法と実装方式を踏まえた DFM レビューで確定します。本ページは推奨値を出しません。
Q2:銅厚を 3oz から 6oz に上げれば放熱は比例して良くなりますか。
面方向の伝熱断面は銅厚とともに増えますが、製造側は同時に厳しくなります。厚銅の段に対応する最小線幅は 6 mil、層数は 1〜16 層に圧縮され、インピーダンス制御の値は ±10% です。実際の効果はこの三つの代償と合わせて評価する必要があり、定量化には案件の熱設計レビューが必要です。本ページは数値的な結論を出しません。
Q3:金属ベース基板の熱伝導率 1.0〜8.0 W/m·K は高いほど良いのですか。
より高い熱伝導率は異なる基材と構造の組み合わせに対応し、同時に層数とビア自由度の制限は残ります(アルミベース 1〜4 層、金属ベースは片面/両面)。選択根拠は熱をどこへ渡すか、回路が使える層数に収まるかであり、熱伝導率の数字単独ではありません。適用する段はエンジニアリングレビューで確認が必要です。
Q4:厚銅と金属ベース基板を同時に使えますか。
金属ベース基板ページの銅厚上限は 1oz〜10oz、アルミ基板ページは 1oz〜6oz で、いずれも厚銅基板の 3oz〜>12oz より低く、層数構造も異なります。この組み合わせの可否は案件資料に基づくエンジニアリングレビューで確認が必要で、本ページは汎用的な確約をしません。
Q5:制御インピーダンス基板でも厚銅の放熱経路を使えますか。
検討は可能ですが、インピーダンス等級は厚銅側の値で議論します。厚銅基板ページはインピーダンス制御 ±10% と明記しており、製造能力ページの ±5% は通常のインピーダンス制御基板に属します。設計が ±5% を必須とする場合、厚銅案は再レビューが必要です。
Q6:三つの経路を重ねて使えますか。
多層 FR-4 の枠内では、サーマルビアと内層銅ベタの組み合わせが通常の手です。金属ベース基板は層数制限(1〜4 層/片面・両面)により、多層サーマルビア案とはほぼ排他的です。重ね方は具体的な層構成と板厚に基づく DFM レビューで判断します。
